平治の乱を描いた軍記物語『平治物語』には、梛の葉が登場するエピソードがあります。
平清盛の留守を狙って起こされた藤原信頼、源義朝らによるクーデター。
熊野詣の途上にあった清盛一行は、切部(※現在の和歌山県日高郡印南町。熊野九十九王子のなかでとくに格式の高い五体王子である切目王子があった)の宿で、京でクーデターが起こされたことを知らされます。
清盛一行はクーデター鎮圧のために京を目指して引き返すことを決意しますが、そのときのエピソードに梛の葉が登場します。
『平治物語』上「六波羅より紀州へ早馬を立てらるる事」より一部を現代語訳。
家貞(平家貞 たいらのいえさだ 忠盛・清盛の二代にわたって側近をつとめた平氏の家人)は「六波羅に御一門の人々が心配してお待ち申し上げているでしょう。急ぎくださいませ」と申し上げたので、清盛もこの考えに賛成し「それならば馬を走らせよ、者ども」と、都を目指して引き返す。
清盛・重盛は浄衣の上に鎧をお着けになった。御熊野に頼みを懸ける諸人が挿頭(かざし:草木の花や枝などを髪や冠や笠などに挿したこと。また、その挿した花や枝)に挿している梛の葉を、射向の袖(いむけのそで:弓を射るときに敵に向ける側の袖。左の袖)に付けた。
「熊野権現に敬って礼拝し奉る。今度の戦に勝たせたまえ」と祈祷するより他に頼みもなく、馬を急がせ急がせ駆けるうちに、和泉国と紀伊国の境にある鬼中山にお着きになる。
熊野詣の途上にあった清盛は、切目王子で梛の枝を手折って左袖に付けて護符とし、熊野権現の加護を祈り、京に引き返しました。
元記事は「平治物語5 清盛、熊野権現に祈る:熊野の説話」。